こんにちは♪
お立ち寄りいただき、ありがとうございます。
日本で多読三原則が広がるきっかけになった、2002年の酒井邦秀先生の『快読100万語!ペーパーバックへの道 (ちくま学芸文庫)』よりも10年以上前、世界で多読が大きな注目を浴びるきっかけとなった取り組みがあります。
それが、フィジーの小学校で行われた、"Book Flood"(本の洪水)という取り組みです。今回は、この取り組みについてまとめた本を紹介したいと思います。
本のデータ
今回ご紹介する本は、以下のものです。多読指導をされたり、多読を研究されたりしている方にはお馴染みの著者による、包括的な実践研究です。
Elley, W.B., & Mangubhai, F. (1981). The impact of a Book Flood in Fiji primary schools. Wellington, [N.Z.] : New Zealand Council for Educational Research.
https://www.amazon.com/Impact-Book-Flood-Primary-Schools/dp/0908567243
本の内容のご紹介
この研究の参加者は、フィジーの複数の小学校に通う小学校4年生、5年生です。いずれも、フィジーの地方にある、15人以上の児童が通い、各クラスの人数は40人未満の小学校です。これらの小学校の中で、8つの学校が"Book Flood"を行う実験群、4つの学校が"Book Flood"を行わない統制群に選ばれました。
まとめると、以下のようになります。
- 実験群1(Book Flood:Shared Book):4つの小学校から成る。4年生、5年生、それぞれ約100名。各クラスに250冊の本が配られる。教師が1冊の本を選び、クラスで紹介したり、ディスカッション(内容や絵などについて)したりする。先生方はこの指導のためのワークショップに3日間参加した。
- 実験群2(Book Flood:Silent Reading):4つの小学校から成る。4年生、5年生、それぞれ約100名。各クラスに250冊の本が配られる。毎日30分程度の読書時間を取り、生徒に読書するよう支援する。先生方は、この指導のためのワークショップに参加していない。
- 統制群:本を受け取らない。通常のオーソドックスな英語の授業を行った。ただし、先生方は1日だけ英語の指導法に関するワークショップに参加した。
この3グループに分け、プレテスト(2月)⇒指導(4月~10月の8カ月間)⇒ポストテスト(11月)の日程で指導をして、"Book Flood"の効果を測定、分析しました。
その主要な結果としては、以下となります。
- After 8 months, the pupils in all 12 schools were carefully tested and interviewed to assess their progress in various aspects of English language. The results showed that at both class levels, the Book Flood schools made twice the expected rate of progress in reading comprehension. They also did significantly better in tests of Listening Comprehension (Class 5), English Structures (Class 4) and Oral Sentence Repetition (Class 4), and marginally better in tests of Written Composition and Sentence Structures (Class 5) and Word Recognition (Class 4). (p. 24)
つまり、8カ月の実践を経た後、"Book Flood"を経験した2つのグループは、4年生、5年生ともに、読解力の伸長が高かったということです。また、読解力以外でも、学年によっては、聴解力や、英文構文力などでも高い効果が出たことが報告されています。
また、"Book Flood"の2グループの間の比較としては、以下のように述べています。
- In the two Book Flood groups, the eight teachers who followed the Shared Book programme produced significantly better results than the Silent Reading groups in Reading and Listening Comprehension (Class 5), but in other respects they were very similar. (p. 24)
つまり、Shared Bookプログラムのグループの方が、Silent Readingプログラムのグループよりも、5年生に関して、読解力と聴解力の結果が有意に高かったということです。ただ、他の点においては、2グループ間の結果は似通っていたと報告しています。
つまり、"Book Flood"という経験をしたか、しなかったかという違いの方が、"Book Flood"内でどのような指導をしたかの違いよりも、効果の差を生む要因だった、と言い換えることができますね。
以上の要点から、以下のように述べています。
- The impact of the books is clearly positive, and, as one would expect, most marked in those English skills which the pupils had been practising - general reading and listening comprehension. (p. 24)
つまり、英語の読書の影響というのは明らかであり、特に、児童の一般的な英語の読解力や聴解力に対して最も効果的だ、とまとめています。
最後に
今から30年も前の実践ですが、ここまで大規模に、長期間にわたって実践をしたElley & Mangubhai (1981)の研究は、今後も必ず読み継がれていくものと思います。
教育のこととなると、イメージや感覚や、自分のみの経験で語られてしまい、議論が空中戦の様相を呈することも少なくないと感じます。
研究論文を読み進めてくると、やはり多読が英語習得に果たす効果は高いと感じます。
そして、Elley & Mangubhai (1981)のような研究が多くの人に伝わり、こういった事例を把握して議論が深まればいいな~と感じます!
そして、日本の小学校でも多読を取り入れるところが増えればいいなと感じます。
このブログでは、こういった研究論文の成果も今後もしていきたいと思います!
なお、多読が読解力向上に与えたことを報告した論文として、他にもBell (2001)や、Hafiz & Tudor (1989)や、Tanaka & Stapleton (2007)を紹介した記事もあります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、Happy Reading!!