こんにちは♪
このブログで、以前、多読を行うことで語彙力向上にどのような効果を与えるのかに関して、Waring & Nation (2004)の論文を紹介させていただきました。
今回は、多読の実践によって新しい語彙がどの程度定着するのかを事例的に研究した初期の重要な研究のCho & Krashen (1994)をご紹介させていただきます。
論文のデータ
今回ご紹介する論文は、以下です。
Cho, K., Krashen, S.D. (1994). Acquisition of vocabulary from the Sweet Valley Kids series: Adult ESL acquisition. Journal of Reading, 37(8), 662-667.
この論文は現時点で650編近くの論文などに引用されている、たいへん有名な論文の一つです。
論文の内容のご紹介
この研究では、以下の成人のアメリカ移住者(すべて女性)4名を対象に、小学校2年生程度を対象に書かれた"Sweet Valley Kids"シリーズ(全33巻、各巻7,000語程度の分量)を、楽しく読むという"free reading program"に参加してしてもらいました。
- Mi-aeさん 30歳 韓国語母語話者 アメリカでの生活5年 英語学習歴6年
- Su-jinさん 23歳 韓国語母語話者 アメリカでの生活5カ月 英語学習歴7年
- Jin-heeさん 35歳 韓国語母語話者 アメリカでの生活5年 英語学習歴10年
- Almaさん 21歳 スペイン語母語話者 アメリカでの生活7年 英語学習歴3年
この中で、Jin-heeさんは韓国で英語教師としての経験をお持ちで、Almaさんは13歳の時にアメリカに移住し、中高をアメリカで過ごしているため、かなり高い英語力をお持ちでした。
このfree reading programsでは、"Sweet Valley Kids"シリーズを、空き時間に楽しみながら読んでほしいと伝えただけで、読む量の指定や、課題などは一切与えられませんでした。また、著者の一人(Choさん)は、"Sweet Valley Kids"シリーズの登場人物などの背景知識を伝えたり、内容についてディスカッションを時々したりして、理解の確認をしました。
さらに、Mi-aeさん、Su-jinさん、Jin-heeさんの3人に対しては、読んでいて分からなかった単語には下線を引くように指示をしました。
この中で、Jin-heeさんとSu-jinさんは、読んだ本すべてに下線が引かれた箇所がありましたが、Mi-aeさんは、最初の2冊のみ下線を引いた箇所があり、3冊目以降はありませんでした。そして、Mi-aeさんとSu-jinさんは辞書を使いながら多読を行いました。Su-jinさんは、各未知語に対する例文のリストまで作成しました。
このプログラムで、4人は以下の分量を読みました。
- Mi-aeさん 8冊 56,000語(1か月) 辞書使用有
- Su-jinさん 18冊 126,000語(2カ月) 辞書使用有
- Jin-heeさん 23冊 161,000語(1カ月弱) 最初のみ有
- Almaさん 10冊 70,000語(2週間) 辞書使用無
このプログラムの効果を、試験を使って検証しました。
韓国人母語話者の3人に対しては、下線を引いた箇所の意味を韓国語で回答してもらいました。Almaさんに対しては、他の3人が下線を引いた語を基に165語を選出し、その意味を英語で回答しました。そして、どの程度が身についているのかを調査しました。
このテストの試験数と正答数、正答率は、以下のようになりました。
- Mi-aeさん 試験数:535 正答数:299 正答率56%
- Su-jinさん 試験数:396 正答数:316 正答率80%
- Jin-heeさん 試験数:275 正答数:189 正答率69%
- Almaさん 正答数:71
この結果を受けて、結論として、以下のようにまとめています。
After working with Mi-ae, Su-jin, Jin-hee, and Alma, we believe that providing the right texts can result in substantial vocabulary acquisition.
つまり、適切な英文を与えることで、かなりの語彙習得につながるということです。
適切な英文とは、学習者に合ったレベルで、楽しい英文ということです。
最後に
この論文を読んでいると、
- 韓国人母語話者3人と、スペイン人母語話者1人への対応がかなり異なること
- ESL環境であり、読書以外の英語接触量がかなりあった可能性が考えられること
- 本の内容について時々確認したり、未知語に下線を引かせるなど、通常の多読よりも、精読的な読みに近かったこと
- 1名の未知語習得率が80%というのは、あまりに高いように思われること
などが気になりましたが、多読と語彙習得との関係を調査した初期の貴重な事例研究としてフォローしておくべき内容だと思いました。
ここに書いてある以上のことが知りたい場合には、ぜひぜひ、論文を読んでみてくださいね♪
ちなみに、このブログでは、多読が語彙習得に与える影響を研究した論文として、Pitts, White, & Krashen (1989)や、Teng (2015)や、Uchihara, Webb, & Yanagisawa (2019)を紹介した記事もあります。
今回は、Cho & Krashen (1994)のご紹介でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、Happy Reading♬