こんにちは。
今回は、マレーシアの地方の中学生に導入した多読指導の実践報告論文のMohd Asraf & Ahmad (2003)をご紹介させていただきます。
マレーシアといえば、多言語国家。母語(人によって異なりますが)だけでなく、英語や中国語なども流暢に使う人が多く、話す相手に応じて複数の言語を咄嗟に変える姿を実際に目の当たりにした時には、とても驚いてしまいますよね。
ただ、そんな多言語国家のマレーシアであっても、Mohd Asraf & Ahmad (2003)の論文発表時の2003年には以下の状況が書かれています。
... whose failure rate in national standardized English examinations is twice that of their urban counterparts (Mohd Asraf, forthcoming). Many rural school students have difficulty understanding English, and few are able to use English in simple conversation. (p. 85)
つまり、地方の学校では英語を理解できたり、使えたりする生徒は少なく、都市部の学校の生徒と比較して英語の成績で赤点の割合が2倍ほど高いというのです。
2021年の現在は状況はかなり変わったと思いますが、この時点のマレーシアの地方の状況は、現在の日本の状況とあまり変わらないのかな~と感じますよね。
というわけで、今回ご紹介するのは、マレーシアの地方の中学校で多読を根づかせた取り組みを報告した、日本の教育に当てはめても考えることができる実践的な論文です。
論文のデータ
今回ご紹介するのは、以下のものです。すでに170以上の論文などで引用されている重要な論文の一つです。
Mohd Asraf, R., & Ahmad, I.S. (2003). Promoting English language development and the reading habit among students in rural schools through the Guided Extensive Reading program. Reading in a Foreign Language, 15(2), 83-102.
論文の内容のご紹介
この研究の参加者は、マレーシアの地方の中学生で、以下の4クラスです。
- 7年生(中学校1年生)の3クラス(それぞれのクラスは異なる学校の生徒)
- 9年生(中学校3年生)の1クラス(7年生のクラスの1つと同じ学校の生徒)
各クラスの人数は14人~35人です。
著者たちは、地方の学校に通う子どもたちは英語に接する機会が少ないことに問題意識を持ち、先行事例をもとに自分たちで考案した"Guided Extensive Reading Program" (GER)を策定し、この4クラスの生徒たちに、週に1回、4カ月間、このGERに参加してもらいました。
この4クラスに対して、複数の授業担当者がGERを実践し、著者たちは各学校を毎週視察しました。さらに、授業後には先生方と議論を重ねることで、その学校やクラスに合った指導を考える取り組みを行いました。
そして、この取り組みを通して、生徒さんたちが英語を読むことへのやる気や動機が高まるかを、ビデオ撮影を含む授業の観察、教師の日記記録などをもとに、考察しました。
この取り組みの結論としては、以下のように述べています。
The results of this study suggest that students in rural schools can and do benefit from extensive reading. The majority of the students in this study developed positive attitudes towards reading in English as the term progressed, although they were initially reluctant readers. (p. 99)
つまり、最初は読むことに熱心でない生徒さんが多かったけれど、次第にほとんどが読むことに対して積極的な姿勢を身につけたと報告しています。その点から、地方の学校の生徒であっても、多読は効果的だと結論づけています。
補足しておきたいのは、この結論に至るまでには、多読実践をされる先生方への著者たちのサポートが素晴らしいということです。
例えば、この取り組みを行う中で、以下のような問題が起こったことが生じたことが報告されています。
- We noticed that, initially, the students did not seem to be motivated to read English books. (p. 91)
- In subsequent lessons, the students tried retelling the stories in their own words, but it was obviously very difficult for them. (p. 93)
- With the exception of the GER session of one teacher, the atmosphere in which GER was conducted was rather stiff and formal -- at least initially. (p. 94)
つまり、最初は本を読もうとしなかったり、読んだ後で本のストーリーを英語で伝え合う活動が生徒にとって難しすぎたり、クラスの雰囲気が硬かったりしたという問題があったのですが、その都度、著者たちが先生方と話し合って、よりよい指導に修正していったという点です。
まさに、研究者と教育者のコラボレーションで、チームワークとしての素晴らしさを感じて、痺れてしまいました!
多読指導は、「単に読ませればいい」わけではないのですね。そして、先生も指導者として成長するには、こういった協同的な取り組みがもっと広がるといいですよね~。
そんな素敵な論文でした。
今回は、マレーシアの地方の学校で確かに多読を根づかせた取り組みを報告した、Mohd Asraf & Ahmad (2003)をご紹介させていただきました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、Happy Reading!!