Graded Readersが語彙習得に与える可能性についてコーパスを使って迫った研究　Nation & Wang (1999)のご紹介

こんにちは。

以前、このブログでは、英語の語彙研究の世界的な権威でいらっしゃるニュージーランドのVictoria UniversityのPaul Nation博士の論文について、いくつかご紹介させていただきました。

今回ご紹介させていただくのは、Graded Readersが語彙習得に与える可能性についてコーパスを使って迫った初期の重要な論文のNation & Wang (1999)です。

論文のデータ
論文の内容のご紹介
最後に

論文のデータ

今回ご紹介させていただく論文のデータは以下のものになります。すでに450編以上の論文などに引用されている、多読研究やGraded Readers研究の中でとても重要な論文の一つです。

Nation, P., & Wang, K. M. (1999). Graded readers and vocabulary. Reading in a Foreign Language, 12(2), 355-380.

https://eric.ed.gov/?id=EJ601603

論文の内容のご紹介

この研究では、Graded Readersの主要シリーズの一つ、Oxford Bookworms Library (OBW)シリーズのうち、Level 1～Level 6まで、各レベルにつき、７冊ずつ（７冊×６レベル＝42冊）、627,429語をコーパス化して分析しています。分析ツールとしては、VocabProfileとRANGEという二つを使用しています。

ちなみに、コーパスというのは、研究などの目的で使用するために集められた言語資料のことです。

このコーパスを、出版社（Oxford University Press）から提供された語彙リストと照合しながらOBWシリーズの語彙使用状況を調査しました。

コーパスデータを使って丁寧に研究されたこの論文では、いくつもの重要な指摘が書かれています。そのうちのいくつかを、以下にご紹介させていただきます。

語彙の使用状況

It seems possible to produce graded readers at each level where the proper nouns and the vocabulary allowed at that level cover more than or close to 97% of the running words in the text. This would provide very comfortable reading. (p. 361)

つまり、出版社が作成した各レベルの語彙リストで指定された語彙（固有名詞含む）で、テキストの97%程度が書かれているということです。つまり、今回調査したOBWシリーズでは、その語彙レベルに達していれば、分からない語彙はほとんどない英文を心地よく読むことができる、学習者に親切な設計になっているということです。

語彙の繰り返し状況

Words from the earlier levels get more repetitions at later levels, so it is important that learners work their way through the levels of the scheme. (p. 365)

つまり、下のレベルのGraded Readersから、上のレベルのGraded Readersに順に読んでいくことで、同じ語彙が繰り返り使用されているため、語彙の習得効果が高まるということです。

各レベル何冊読むと、語彙の習得が期待できるか

... around two thirds of the words occur three times or more at the level at which they are introduced in the seven readers at that level. Almost 40% of them occur ten times or more. This indicates that by reading seven readers at a level, learners would have a good chance of learning a lot of words. (p. 363)

つまり、Oxford Bookworms Libraryシリーズの各レベル7冊程度読むことで、3回以上繰り返し使用される語彙は3分の2程度あになり、そのうち40%の語彙が10回以上繰り返されるため、各レベル7冊読むことで語彙習得の効果が期待できるということです。

どの程度の頻度で読むと、語彙の増加が期待できるか

Learners need to read at least one graded reader a week to meet words often enough to have a good effect on their vocabulary growth. (p. 369)

Where English is taught as a foreign language, this would mean that over a two year period, allowing for holidays, learners would read around fifty graded readers from all levels of a scheme and thus have a very good chance of gaining strong receptive knowledge of the 2,000 high frequency words of English. Fifty graded readers would make up of a total of about 750,000 running words of text. (p. 368)

つまり、少なくとも週に1冊（Level 1の5,000語程度の分量）のGraderd Readerを読み続けることで、語彙の繰り返し学習が可能になって、語彙習得効果が高まるということです。

また、2年間かけて、すべてのレベルのGraded Readersを50冊程度、合計で75万語程度読むことで、基本2,000語を習得できる可能性がかなり高いという研究結果です。

最後に

この研究では、Graded Readersの特長についても、以下のように触れられています。

This study has shown that a carefully designed scheme of graded readers is a very effective means of ensuring that learners meet the high frequency words of a language with plenty of repeated opportunities so that learners have a chance to learn them and to enrich their knowledge of them. (pp. 374-375)

84.7% of the words in the GSL [General Service List] are in the graded reader list. There is thus quite a big overlap between the two lists, showing that the graded readers provide a good way of meeting the high frequency words of English. (p. 369)

この研究で扱われたのはOBWシリーズの一部のみなので、これが他のGraded Readersのすべてのシリーズに応用できるかどうかはわかりませんが、指導者にとっても、学習者にとっても、とても参考になることが多い論文だと思います！

ちなみに、この研究で使われたOBWシリーズのうち、一番下のレベル（Starterレベル）は250語の語彙を知っていればわかるように書かれています（1冊　1,500語程度の分量です）。次のStage 1は、400語の語彙を知っているればわかるように書かれています（1冊　5,000語程度の分量です）。それぞれ、人気のある本を1冊ずつ（Starter：The Girl with Green Eyes、Stage 1：Les Miserables）以下に紹介させていただきます。